#6『ケン・リュウ短編傑作集1 紙の動物園』(ケン・リュウ/ハヤカワ文庫 SF)

 久しぶりに読む海外作家のSF作品だった。

作者はケン・リュウ先生。今世界中のSFファンがもっとも注目している期待の新鋭作家らしい。正直、名前にうっすらと聞き覚えのある程度だったが、又吉さんの帯を見て買うことを即決した。

 

この本には表題作である『紙の図書館』を含む7作品が収められている。

 

その中でもっとも深く刺さってきた作品『太平洋横断海底トンネル小史』を紹介しておこうと思う。

 

中日全面戦争の可能性が回避され、帝国への“平和的上昇”を掲げた日本。世界恐慌に対する経済対策として、日本側はアメリカに対して、大西洋横断海底トンネル構想を持ちかけ、合意を得る。その結果、世界大戦の惨禍を回避した世界である。そこで働いていた台湾人チャーリーを通して語られる知られざる歴史は、戦前日本のアジア人炭鉱労働者を思わせる。

 

今回収録されている7作品を通して感じたのは、登場人物が抱くある種の無力感(異なる文化に所属しているものの間においては決して理解し合うことはない)である。

 

この作品と触れ合うことで我々は、異なる文化や文明基盤に属する集団同士の相互理解の難しさというテーマを登場人物を通して突きつけられることになるだろう。だがそれは、今我々が世界を見る際に越えていかなければならないテーマなのではないだろうか。