#8 「ブラフマンの埋葬』(小川洋子/講談社文庫)

今月の初旬より講談社文庫と乃木坂46がコラボした「乃木坂文庫」が発売されている。

この作品は僕がその縁で手に取った作品のうちの1冊である。

小川洋子先生の作品は初読みではなく、本屋大賞を受賞された『博士の愛した数式』を過去に読んだことのある僕には2作目ということになる。

 

あらすじ

主人公は<創作者の家>の管理をしている<僕>。元々はある出版社の社長が別荘として使っていた建物だが、芸術家に無償で仕事場を与える場所としてほしいと遺言が残されていた。

そんなある日、身体中に傷を負った動物と出会う。サンスクリット語で「謎」を意味する「ブラフマン』という名を与えられた動物と<僕>との一夏の物語。

 

*若干のネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。 

 

ブラフマン>は何者だったのか

*1が何の動物であったのかは最後まではっきりと描写されることはない。

チョコレート色の瞳、黒いボタンのような鼻、普段は隠れている2本の前歯、ひげ、水かき、尻尾を持っていて何でもかじる癖のある<ブラフマン>。主人思いな点から犬、あるいは水辺の小動物を推測させる。

姿かたちも何の動物かもわからないことで、ペット以上の何かのメタファーとした役割を与えられているようにも感じます。

 

今作の魅力

<僕>と<プラフマン>の一夏の交流が描かれた、シンプルなこの作品。 ページ数も170ページほどと比較的読みやすい文量でもあるだろう。

何気ない日常が描かれているため、事件という事件もほとんど起きず、タイトル等からその結末はある程度予測しうるかもしれない。

淡々とした物語展開だが、だからこそ作者が描き出す美しい世界の描写が胸に沁み渡ってくる。その中でも、いろいろなことを考えさせるフックは仕掛けられている。

キラキラと輝く宝石を眺めるかのような優雅な気分でこの作品をじっくりと堪能してほしい。

 

 

 

*1:作中で<僕>は<ブラフマン>の身体的特徴から彼女ではなく彼だと断定する